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【來斗side】
君を見た瞬間は永遠となった。
正確に言うと、時間が止まったように感じた。
「あのっ」
無意識に俺は君に声をかけてしまっていた。
振り向くと君の長い髪が揺れてドキッとした。
君は何も言わずただ、俺の事を見ていた。
次第にその首は傾いた。
「えっと…、私に何か用ですか…?」
その声はすごく透き通っていた。
きっと心の澄んだ人にしか出せない、そんな声。
「あっ、えっと、その…、荷物、持ちましょうか…?」
俺はなんとかはぐらかした。いや、はぐらかせたのだろうか。自分でもなんとも不自然だと思う。
でも、言ってる事は本心だ。君が持っているダンボールは2つで女の子が持つ量じゃないと思う。多分、日直かなんかで担任の先生か誰かに押し付けられたのだろう。可哀想に。
「…すいません。お願いしてもいいですか?職員室までなんですけど、1階までこの荷物を持って降りるのはちょっと」
君はそう言って困った顔をした。
確かにここは3階だ。職員室のある1階までその重たそうな荷物を持って降りるのは大変だと思う。
「じゃあ俺が持つから、着いて来てもらってもいいですか?」
「いえ!1つ持ってもらえば。これは私の仕事なので」
その一言を聞いて良い子なんだなと思った。だって俺に頼ってもいいのに。まあ、顔も知らない人にそんなことできないか。
「わかりました。じゃあ、俺が1つだけ持ちますね。重たくなったら言ってください」
俺はそう言って上のダンボールを持った。そんなに重たくはなかったが、もう1つとなると結構重いと思う。それに女の子だし。
「ありがとうございます。あの、同じ学年ですよね?」
「あぁ、俺2年」
「じゃあ、同んなじですね。…敬語、やめません?同い年なんですし」
それを聞いてそう言えば、と思った。確かに同い年なのに敬語はおかしい。
「そうだな。俺、3組の成沢來斗(なるさわらいと)。君は?」
「私は1組の相澤風歌(あいざわふうか)。よろしくね」
相澤風歌。可愛い名前だな。そう思った。
「こちらこそ」
俺たちはその後、職員室に荷物を届けた。
「ありがとう。すごく助かった」
「いいや。あんな重い物を女の子に運ばせる先生が悪いんだよ」
「ふふっ。じゃあまたねっ」
君はそう言うと長い髪を揺らしながら帰って行った。
俺はまだ、この不思議な気持ちがなんなのかわかんなかった。
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