第1章

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「何らかの方法で電球をショートさせた可能性もあるぞ。あれは結構な光が出る」  いきなり亜塔が大声で提案した。どうにも亜塔は疲れていない感じがする。さぼってはいなかったはずだが、体力が有り余っているのはどうしてなのか。それ以前に電球をショートさせるというのは何だろうか。それは電流の流しすぎということか。 「でもさ、あの実験自体がカオスだったよな。化学と物理の分類って意味があるかな?」  青ざめた顔で言うのは芳樹だ。その顔はまだまだ終わりが見えないことを示している。自分が情報発信源とあって、余計に困っているのだろう。 「うっ。どうして未分類か解った気が」  桜太は恐々と書類の山を見た。あの実験の資料は要するにざっくり分けただけでは意味がないのだ。しかも内容を確認すれば科学と物理が混ざっているはずである。要するに、資料を作った当人たちも分類に困ったに違いない。結果としてなんでも突っ込むという仕舞い方をしたのだ。 「何か思い出せないんですか?こういう器具を使っていたとか」  ヒントが欲しくて楓翔は三年生を睨んだ。その目は明らかに何でもいいから思い出せと訴えている。 「器具ねえ。あの時はもうすでに化学教室と物理教室の器具が混然一体化していたような」  首を捻る莉音の答えは心もとないうえにさらなる混乱を招くものでしかない。本当に三年生も実験内容が思い出せない混沌ぶりだったのだ。 「その時って、ちゃんと科学コンテストに応募したんですか?」  こうなると実験結果がちゃんと出たのかも怪しい。優我は問題の核心を突く質問に出た。 「――応募してないな。結局は俺がぼんっとやったところで実験そのものが止まってしまったんだ」  亜塔が決定的な一言を放つ。二年生としてはやはりお前の責任かと思いつつ、歴代の先輩たちもやっぱり変人だったんだと思うしかない。何をやっていたかも思い出せない実験なんて実験ではない。
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