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四方を囲む高い塀は余所者への拒絶を。
威風堂々と構える立派な黒塗りの門は余所者への威圧を。
そして代紋を一度目にすれば、堅気を生きる人間達は裸足で逃げ出す極の道。
それこそが金と暴力に生きる組織の象徴。
手入れが行き届いたうつくしい日本庭園にて。
敷き詰められた玉砂利の上に、血飛沫が舞う。
血飛沫と共に吐き出された血反吐に、ああ今のでアバラいったかも、などと思いながら縁側に腰掛け呑気に眺める一人の男がいた。
男、【雁井辰巳】は無感動に、中庭に転がされ今なお暴力を尽くされる哀れな男と、ソレの頭を踏みつけ暴虐を尽くす長身の男の二人を傍観していた。
事の顛末はさほど珍しくもない。
今宵、哀れな男は辰巳が寝起きする離れの邸へ好奇心のまま赴き、不埒を働こうと画策し、辰巳の上に跨がったところで長身の男により蹴り出され、今もこうして雨濡れの庭に転がされているのだ。
哀れな男はおそらく最近此処に入ったばかりの新顔なのだろう。
そうでもなければこの組のナンバー2ともなる【若頭】が帰宅後真っ先にこの離れを訪れることを、此処に住まう人間が知らないはずもないのだから。
「────摘み出せ」
低く、重く、それでいて圧のある声が、さあさあと降り注ぐ霧雨の中にずっしりと落とされた。
周囲に控えていた黒服は従順に、迅速に新入りの両脇を固めずるずると引きずっていく。
摘み出すと言っても単に塀の外へと弾かれるだけでは済まないだろう男の宣告に、黒服達が抱くものは恐怖か、それとも崇拝か。
ただし己の場合、男の声を聞いてせり上がるものは腹の底から湧き上がる情欲と嫌悪に他ならないが。
「……部下の躾がなってねーんじゃねえの」
長身の男───若頭は部屋の外回りを囲む板張りの床を土足のまま上がり込み、悠長に足を組む辰巳の両腕を強引に引いて立たせる。
その革靴が新入りの吐瀉物と泥で汚れていることをぼんやり見やっては、蹴り飛ばされた新入りに巻き込まれて無惨な姿に変わり果てた障子を跨ぎ、六畳一間の部屋に引き戻されるまでを黙って従う。
辰巳の言葉など始めから聞く耳持たず、朝から敷かれたままの布団に細身の肢体を組み伏せて初めて、若頭は真っ直ぐに辰巳を見下ろした。
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