第一部 口に逃がすは妙薬*

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* * * 「…─────っ、あ、ア、ひぁ……っ!」  嬌声には拒絶が滲む。  しかし、己の上に覆い被さる若頭は、その訴えを強請る手段のひとつだと思ったらしい。  さらに質量を増した男の怒張がえげつない角度で幾度も幾度もナカのイイトコロを擦り上げ、辰巳は何度目になるかも分からない吐精を果たした。  反り返る背、弓なりに(しな)る素足の、なんと情欲を掻き立てることか。  部屋の影は踊る。  艶やかに舞う。  行為の激しさを物語る影絵を障子越しに目撃した人間が、まるで捕らわれた籠の中で逃げ惑う蝶のようだと。  そう同僚へ語り聞かせたことを、夜伽に耽る彼らだけが知らない。 「はっ、ハァっ…………ふ、ぅ…」  部屋に籠もるあえかな息遣い。  足下には見るも無残な布団カバーがたぐまっていた。  さらさらとした手触りが自慢のそれも、長い前戯のせいで白濁を吸い、ぐっしょりと重く濡れている。  行灯が照らす六畳一間。  中心に敷かれた布団の上へと押し倒され、押し開かれた辰巳の鎖骨から臍に向かって大きくはだけた上半身に散る朱、朱、朱。  鬱血、噛み痕、拘束の痕。  橙の光に照らされた艶めかしい肌の上を、男の唇が、掌が、辿った軌跡。  並々ならぬ執着の証が全身に刻まれた肢体を、彼は力なく布団の上へと投げ出した。  息も絶え絶えの中、辰巳はゆらりと、男を見上げる。  どうやら上の獣も辰巳の後を追うように射精したのだろう。  額に薄くかいた汗、僅かに湿りを帯びた灰がかる黒髪が、男の匂い立つような色香を漂わせる。 (────機嫌悪ィな…)  餌を横から掠め取られた猛禽類か。  眠りを阻まれた百獣の獅子か。  いいや、その程度のものではない。  今この瞬間、身を貪られる自分にとって、この男の恐ろしさは例えようもない底無し沼も同然。  支配される屈辱。  暴かれる恐怖。  男の自分に、文字通り身体へと教え込んだのは、猛禽類でも獅子でもない一人の人間ぽっち。 「───何を考えている」 「っ、ンん! ───、 、ぁぁあッ!」  数瞬の余所見さえ見逃してはくれないらしい。  脚を抱えられ、引き上げられ、所謂対面座位の体位を強制的に取らされた彼は、自重でずぶずぶと沈み込む身体を待っていたと言わんばかりに男の雄で貫かれ、女のように高く喘ぐ。  
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