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3月も半ば頃、一人の小太りはにこやかにA4サイズの紙を握り、
廊下を歩いていた。それもそのはず。小太りが握っていたものは
内示の通達書類だ。警察庁に新しく新設される「長期捜査対応室」の
室長になれると言うから、その喜びは計り知れない。
小太りは勢い余り階段で転び、脛を打つまでは、その喜びに浸っていた。
◆
新しい部屋は生活安全局の応接室を潰して作られた。
8畳と応接室とは広めだが、部署が入る部屋としては
狭いようだ。そのあたりを良く見た後、小太りは真新しい
自分のデスクに段ボールを降ろした。段ボールには数時間前、
無造作に詰め込んだデスク用品が入っており、何故か一番上に
サボテンが乗っている。そうこうしていると、突然ドアが開き、
美人でスタイルの良い女性が入ってきた。
「すみません、この部屋が長期捜査対応室で間違いありませんか?」
「え?えぇ、まあ…」
小太りは自信無さげにそう答えた。
「私、長期捜査対応室に配属されました。佐伯由佳と申します。
室長の鈴木慶太さんで宜しかったでしょうか?」
部屋に入るなり自己紹介か。まあ、流れとしては自然なのだが。
小太り、いや「鈴木慶太」は
「はい、鈴木ですが、ここって何人体制なんですか?」
そうだ、ここは何人で回す部署なんだ?内示を受けた時は聞いてなかった。
「へ?2人体制と聞いておりますが。」
佐伯由佳は変人を眺めるような顔をしつつもそう答えた。
そうだ、まだ言ってないことがあった。そう思ったらしい
由佳は何故か段ボールを降ろさずにお辞儀をし、
「よろしくお願いします。」
と言った。
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