サーバー管理者の悲劇

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『制裁アプリ』のバージョンが2.1に変わってから、人々は臆病になった。 名前のわからない通行人にでも、何かを撮影されたなら、ポイントがついてしまうからだ。 一方で、正義の味方を気取ってスマホ片手に街を歩く者がいた。 相手を特定する必要はないから、彼らは、ひたすら写真を撮れば良かった。 問題が共有化されたら、写真は雑誌から撮ればよい。 「明日は我が身ですな……」 新聞を開いた官房長官が、湯河原と秘書の死亡記事に目を落とした。 「ここ半年で市民は品行方正になって犯罪は減った。 それは『制裁アプリ』の功績ですよ」 法務大臣は、湯河原を死に追いやった週刊誌に目を通している。 「しかし、国民は怯えていますよ。 電車の中やショッピングモールでうるさくしていたとか、 グループの抗争で死んでしまう子供もいます」 厚生労働大臣が言った。 「我々は国民の目を恐れて国会で眠れなくなり、ヤジも飛ばせない。 国民は外出を控え、消費支出は低迷している。 このままでは日本はだめになる」 総理は、法務大臣の手から週刊誌を取り上げ、床にたたきつけた。 「ここは私の国だ。 アプリごときに、好きにさせるものか!」 9月の国会に政府は法案を提出した。 『制裁アプリ』禁止法案だ。 夕方になって、『制裁アプリ』禁止法案が提出されたニュースがテレビに流れ、 ネットニュースに表示されるようになると、閣僚がバタバタと倒れた。 『制裁アプリ』の擁護者が、 日本の秩序を破壊し、国民の自由を奪うものだとして、 閣僚らを告発したからだ。 そうして『制裁アプリ』禁止法案の審議は止まったが、 『制裁アプリ』は法治主義に対する挑戦であり、 国家に対するテロ行為だという認識が国会議員の間に広まった。
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