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新たな政府は、『制裁アプリ』が置かれたサーバーを所有する企業を呼び出し、
極秘裏に『制裁アプリ』を削除することを命じた。
それもまた、法治主義を脅かす行為ではあったが、指摘する者はいなかった。
「仕方がないわね」
レンタルサーバー会社でシステム管理主任をしている菊地園子は、
システムエンジニアの九十九元(はじめ)を連れてサーバールームに向かった。
冷房の効いたサーバールームに入るために、二人はジャンバーを羽織る。
太った九十九は窮屈そうに羽織っただけで、ファスナーは締めなかった。
システムエンジニアの九十九は派遣社員だ。
ハードとソフトに通じていて、プログラムを書くこともできる。
「所有者の承諾は、とれていないのですよね」
派遣先の要請とはいえ、違法行為を行うことに消極的だった。
『制裁アプリ』に興味と親近感を持っているという理由もある。
「そうよ。そんなことができるくらいなら、
サーバールームに入ることもないでしょ。
所有者には何度か削除依頼のメールを送ったけれど、都度、拒否されたわ」
「だからといって、オフィスの端末で削除はできなかった……?」
九十九は園子の顔を覗き込む。
「そうよ。何故か、エラーが出てはねられるの。
うちの社員じゃ、手におえなかった」
「システムに食い込んでいるということですか?」
「それさえ分からないのよ。
人を殺すプログラムなんて、人知を超えていると思わない?」
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