サーバー管理者の悲劇

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ビルのワンフロアを使ったサーバールームには、 ブーンと唸るような冷却ファンの音だけが響いていた。 沢山あるサーバーの中から『制裁アプリ』のデータが乗ったサーバーを選び、操作端末を開いた。 最初は、標準的な削除プログラムを走らせたが、 園子が言ったように、エラーメッセージに遮られ、 次のステップには進めない。 「接続数が多いからかもしれません。 このサーバーをネットワークから遮断しましょう」 九十九は、深く考えることなくキーをたたき、 そのサーバーをネットワークから切り離す作業に入った。 「ウッ……」 九十九が胸を抑えた。 「九十九さん!」 園子が九十九の肩を支える前に、九十九の身体は床に崩れ落ちた。 園子は固定電話で救急車と上司を呼び、 サーバールームを一旦出た。 そこにいるのが恐ろしかったからだ。 AEDを手にした上司がやって来たのは15分も過ぎてからだ。 間抜けな上司は救急隊員が到着するのを待っていたのだ。 九十九は倒れた時の姿勢のままで、顔はすっかり血の気が引いていた。 「九十九さん!」 脈も呼吸も止まった九十九が、園子の呼びかけに反応することはなかった。 「菊地さん、これ……」 間抜けな上司はモニターを指す。 九十九のアカウントが強制的にログアウトされたと、表示されていた。 「このサーバーに、タイムアウトの設定はありません」 園子が首を振った。 何もかも、分からないことだらけだ。 園子は、救急隊との対応は上司に任せ、 オフィスに戻り、『制裁アプリ』で九十九元を検索した。 ポイントは1000点に達していて、 『この世から、悪は消えない』と、メッセージが表示された。 改めて投稿された写真を見て驚いた。 その数は少なく、ポイントを合計しても300ポイントにさえならないからだ。 『制裁アプリ』は日本国内で3カ所、他の先進国のいくつかのサーバーにもあって、 それを削除しようとしたエンジニアは、九十九と同じ運命をたどった。
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