サーバー管理者の悲劇

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「九十九元もやられたらしいな」 加藤は徹夜明けの眼をしょぼしょぼさせながら背伸びをした。 「知っている人ですか?」 「直接は知らないが、優秀なハッカーだと聞いている」 「そんな人が、やられちゃったんですか?」 二宮の声を、善春はぼんやりと聞いていた。 「削除しようとすると死んでしまうって……理解できないな。 どんな風に、やられたんだろうな……」 「近くに直接手を下した人間がいたんじゃないかと、もっぱらの評判だよ」 円谷は立ち上がり、コーヒーサーバーで、コーヒーを入れた。 「円谷さん。ずっと、コードを書いていたんじゃないんですか?」 「コードを書いていたって、メールのやり取りぐらいはできるさ。 九十九は、死ぬ直前のポイントは300代だったそうだ。 殺したのは『制裁アプリ』じゃないというのが、俺の友達の見解だ」 「でも、死んだのはサーバールーム内でしょ? だとしたら、容疑者は極僅かですよ」 「そういうこと。すぐに犯人が捕まるさ」 「でも、『制裁アプリ』を駆除しようとして死んだのは、九十九氏だけじゃない」 普段は、そういった会話に割り込まない善春が口をはさんだ。 円谷たちは驚いて、善春に注目する。 善春は、炭酸飲料とスナック菓子を机に置いて仕事の準備をしていた。 「王寺さんの言う通りですよ」 二宮が言った。 「だったら、王寺。お前はどう考えている?」 「セキュリティーじゃないかな……」 「セキュリティー?」 「簡単な話です。『制裁アプリ』には、 削除されないためのセキュリティーが組み込まれていると考えるんです。 削除しようとするエンジニアは、自分のアカウントでサーバーに入るから、 『制裁アプリ』はアカウントを読んで相手を特定することができる」 「なるほど。相手が特定できれば、殺すのは簡単なわけだ」 善春はコクリと頷き、話を止めた。
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