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「それじゃ、誰も『制裁アプリ』を止められないということですね。
アニメみたいにサーバーの電源でも落とさないと」
二宮は斧で電源ケーブルを断ち切る仕草をした。
「そんなことが簡単にできるか。ネットワークはエンタメだけじゃないんだ。
国内外金融、軍事、交通輸送、医療……
あらゆる分野でリアルタイムでデータの交換、同期が行われている。
一瞬でも止めたら、社会がパニックに陥る」
円谷はコーヒーを手にして自分の席に戻った。
「でも、『制裁アプリ』は3カ所のサーバーにしかないはずです。
その程度なら、他のシステムを引越しさせて、
3つのサーバーの電源だけを落とせばいいと思いますけど……」
二宮は自分の考えに固執していた。
「王寺、どう思う?」
円谷が訊いた。
「ボクなら、あちこちにバックアップを眠らせておきます。
現に、アップロードされる画像ファイルは3カ所以外のサーバーです。
少なくともそこには、『制裁アプリ』の根が張られている。
世界中のサーバーにバックアップが眠っていると考えた方がいいと思います」
「王寺さんは、いつの間にそんなことを調べたんだ?」
「まさか、お前が作ったんじゃないよな?」
研究室内に疑惑の空気が生まれた。
善春がそんなことをするはずがないと思ってはいるが、
善春にはそれをする能力があり、
他の誰かにはないと考えると、疑いは沸き起こる。
「ボクが作成者なら、自分が作成したソフトで、自分が死ぬような間抜けなことはしません」
善春はカリカリと菓子をかみくだいた。
「なるほど。それもそうだ」
円谷は、安心して苦いコーヒーを飲みこんだ。
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