制裁アプリ防衛委員会

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プロジェクトが始動して1カ月。 まだ、『制裁アプリ』がどうやって人を殺すのか、 何故、サーバーから削除不可能なのかといった技術的な面も含め、 全容はつかめていない。 その日は週に1回の全体会議で、メンバーはビルの5階に作られた大会議室に集まっていた。 エンジニアたちは、誰もが自由に発言し議論できる全体会議を、 自分の実力を発揮する場だと考えていて、 会場にはピリピリとしたムードが漂っている。 手を上げたのは公安部所属の智頭(ちず)保雄だった。 「表面上はSNSに画像ファイルをアップするだけのソフトに見えますが、 意味のないコードが紛れ込んでいるのが分かりました。 ただの誤記入なのか、意図があるのかは、今のところ不明です」 共有モニターには、意味のない部分にマーカーのついたコードが映し出されていた。 「たった20文字程度の誤記入で、何かできるというのですか?」 自衛隊所属の阿倍幹夫が、身体を傾けてケチをつける。 身体が大きく顔色が悪いので、陰ではフランケンシュタインと呼ばれていた。 二人の意見に耳を傾ける者もいれば、ぼんやりとやり取りを眺めている者もいた。 「意味がないということはないはずです。 『制裁ファイル』の本質は、役に立っていないと思われる、 これらの小さなコードだと私も考えています。その機能を考えてください」 その断片的なコードの存在に、藤堂自身も以前から気づいていた。 ただ、それが何を意味するのか分からない。 ずっと頭を悩ませているコードなのだ。 フランケンシュタイン……いや、上司の不名誉な発言を挽回しようと、 自衛隊の稲田佳織が手を上げた。 「ループ型ウイルス、メビウスの輪のコードの一部に見えます」 公安部の小林帆花(ほのか)が手を上げる。 「自己増殖型のウイルスSEEDに、似ていますが……」
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