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「いいですか……」
突然、MSB所属の岡本葵が立ち上がり、参加者の注目を一身に浴びた。
金色の長い髪には高さ30センチもある大きなピンク色のリボンが乗っている。
白い肌に青い瞳が輝き、レースがふんだんについた白いドレスはフランス人形のもののようだ。
ただ、ぽっちゃりとした容貌と背の低さは、フランス人形というよりキャベツ人形に近い。
その容姿容貌に、多くのものが外国人だと考えていたが、
青い眼はコンタクトで、れっきとした日本人だ。
その日の衣装は、甘ロリファッションのつもりだった。
「あんな奴、プロジェクトにいたか?」
今更ながらだが、阿倍が佳織に問いかけた。
「最初から、ずっといましたよ」
「嘘だ。先週の全体会議にはいなかった」
「いましたよ。先週はゴスロリだったけど」
「ゴスロリ?」
阿倍は佳織を見つめる。小さな瞳の瞳孔が開いていた。
「ゴシックロリータ……黒ベースのドレスでした」
「黒……そういや、いたな。黒いカラスアゲハみたいなやつ」
「それですよ」
「どうしてあんな奴が、政府のプロジェクトにいるんだ?」
「藤堂リーダーが、どうしてもって、引っ張って来たらしいですよ」
「あんな見た目でも、出来る奴ということか?」
「そうそう。見た目と中身は違うんです」
「そこ、うるさい!」
葵が白いレースの手袋に包んだ指で、阿倍と佳織を指した。
阿倍が顔を赤らめると葵は納得し、今度は、前面の大型モニターを指した。
「そのコード、私のものとは違います」
「そう言えば……」会場内がざわついた。
前面のモニターや各担当者のモニターには、発言者のモニターと同じものが表示されている。
それで、誰も、智頭のデータと自分が持つデータとの違いに気付かなかったのだ。
それに気づいた葵の記憶力と集中力は、他の誰よりも優れていたと言える。
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