制裁アプリ防衛委員会

6/9
前へ
/214ページ
次へ
「ウイルスというのが適切かどうかは分からないが、 複数の端末が補完し合って、一つの実行ファイルになっているのは間違いない」 「我々が持っているファイルを持ち寄って、 どれだけのパターンがあるのか、調べる必要がありますね」 「ここにないパターンを持つファイルもあるのではないでしょうか?」 帆花が大きな声を上げた。 「追加で解凍してみます」 智頭が応じる。 「意味がないと思われる部分のコードを並べてみれば、プログラムの全容が見えますね」 帆花は瞳を輝かす。 阿倍が立ちあがった。 「そんな手法では、その組合せの数は天文学的になるぞ」 胸の中の憤りを発言に込めていた。 「その通りです。 スマホに乗るアプリのサイズは小さい。 ところが、世界中の人々がアップロードする画像データから同一人物を特定し、 ポイントを付与する『制裁アプリ』の核になるファイルが小さなものであるはずがない。 だから、不思議だった。 ネットワークで動くと分かれば、その答えは見えてきますが、 『制裁アプリ』の中の20文字程度のコードを100並べても2000文字。 本来の実行ファイルが、その程度のはずがありません。 おそらく、コードのパターンは万単位でしょう。 組み合わせで解析できるとは思えません。 ここは、開発者との知恵比べです。自分の頭を使ってください。 コードの断片から開発者の意図を想像し、つなぎ合わせるしかありません」 「そうは言ってもですね……」 「ぐずぐず言う暇があったら考えろ」 声を上げてエンジニアたちをにらみつけたのは、藤堂ではなく阿倍だった。 IT技術で劣る評価を、リーダーシップで補完するつもりだ。 阿倍に仕切られたことに納得がいかないエンジニアたちは、それを言わない。 そんなことを口にするのは馬鹿だと思うからだ。 が、そう言った態度を利用して、阿倍はリーダーの地位を築いていく。 「立ち直りが早いわ」 佳織が阿倍を見上げてつぶやいた。
/214ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加