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善春は、ちらりと閻魔大王を見上げる。
真っ黒な顔についている金色の瞳ばかりが目立って見えた。
それは、自宅の床の間に下がっている掛け軸の達磨大師のものに似ている。
そう思うと、善春の中の閻魔大王は恐ろしい鬼の親玉のような存在ではなくなった。
「はい。『制裁アプリ』によって死んだということなど、
合理的にありえないと思うからです」
「なるほどのう。
汝の意見ももっともだが、
世の中には理屈に合わないことが多いと、考えたことはないか?」
閻魔大王の言葉は、思いのほか柔らかかった。
「もちろん、あります」
「それでは、『制裁アプリ』による死も、
そのうちの一つだと考えられぬか?」
一瞬、善春は言葉に詰まる。
「もし、アプリによるポイントによって人が裁かれるのだとしても、
ボクの罪の一つ一つは小さなものばかり……、いいえ。
法を犯したのですから、小さいとは申しません。
が、それだけを持って、王寺善春という人格を決めつけられるのは心外です。
良いところは、ないのでしょうか?
人は、悪い部分だけをとりあげて、裁かれるものでしょうか?」
「汝は、父親を悲しませまいと、男としてふるまっておる。
そのけなげさは、評価しよう」
大魔王の言葉に、善春は、イケル、と感じた。
自分の想いを主張して、説得できるかもしれない、と。
「しかし、それは閻魔大王として、人を裁く場合の基準じゃ。
『制裁アプリ』が汝を裁いた基準は、我のそれとは違う」
「どう違うとおっしゃるのですか?」
善春は、閻魔大王の瞳を真直ぐ見上げた。
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