鬼の袋

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「あの袋は鬼のふくろ。 ヌシらの住んでいた世界では、 フレコンバッグと呼ばれている物、 魂、肉体、記憶、怒り、哀しみ、喜び、罪、功績…… 中には死者の全てが入っている。 白い袋には成熟した美しい魂の持ち主。 それは天上界の神の下に出荷…… モトイ、送り届けられます。 緑の袋には未熟な魂の持ち主。 それは再度、地上に送られ、 修行し、魂が成熟する時を待つのです。 黒い袋には腐った魂の持ち主。 それは地獄に送られて……」 サーラメーヤは言葉を飲み、オヨヨと泣いて見せた。 人々は、その先を想像できたが、聞かずにいられない。 「地獄に送られた魂は、 針の山で穴をあけ、 血の池に浸して清めた後、 火炎によって焼却処分されるのです。 冥界に来た人々は、大地を埋め尽くしたフレコンバッグに恐れおののき、 みんな思考停止に陥る。 見なかったことにする人間もいるし、 白や緑のバッグのみに目を止めて、未来は明るいと言う者もいる。 何れにしても、正面から受け止める者は、ほとんどいない。 さて、ヌシらはどっちかな?」 サーラメーヤは、瞳をぎらつかせて群衆を睥睨(へいげい)する。 人々はサーラメーヤから視線をそらし、 ベルトコンベアを流れる三色のフレコンバッグに注目する。 そして…… 自分は何色の袋に入れられるのだろうか? ……と、不安と恐怖におののく。 死の意味を考える者は、ほとんどいない。 善春の眼だけは、袋ではなくベルトコンベアを見ていた。 それが機械ではなく、 小さな餓鬼の集合体で、 せっせと袋を運んでいるのだと気づいて感動していた。
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