ゆがんだ血統

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翌朝、外の騒がしさで目を覚ました。 昨晩、父親と言い争ったために眠りが浅く、頭はぼんやりとしている。 カーテンを開けると、玄関先に沢山の人が集まっていた。 中央にまぶしく光る父親の頭があった。 作務衣(さむえ)姿の王寺を取り巻く人々の中には、幾人か見知った顔がある。 近所の住人だった。 結婚式に参加する人々かと想像したが、違った。 「住職よ、あの爺さんに何とか言ってやってくれ。俺たちも限界だ」 そんな訴えが、善春の耳にも届いた。 「分かった」 王寺は低く太い声で応えると、 人々の先頭に立って杉田岩雄という近所の老人のもとに向かった。 杉田は、70歳になろうという白髪頭の頬のこけた男だ。 昔から気が短く暴力的な男だったが、 妻が生きているうちは、表立って無茶をすることはなかった。 ところが、5年前に妻を亡くしてから本性をむき出しにし、 いや、それまで溜め込んでいたものを爆発させたかのように、 我を張り、他人を攻撃するようになった。 今では家の前の道に荷物を並べて他人が通れないようにし、 隣近所で物音がすると怒鳴り込み、 反論すると刃物を持ち出して振り回すようになった。 その日も、隣の家から流れた水がくさいと言って、 その家の配水管を土でふさいだというのだ。 王寺は下駄をカラコロいわせて歩いていたが、 杉田の家が見えたところで足を止めて振り向いた。 「みんなで押しかけては、あいつの機嫌を損ねるだろう。 ここは私に任せてくれ」 王寺は光った頭を少しだけ下げると、 再び向きを変えて杉田の家に向かって歩き出す。
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