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「どうして、ワシは殺されない?
善春にも、近所の者たちにも、憎まれているはずなのに……」
「善春は、あんたのことを知らない。
近所の者たちは立派な大人だ。寛容ということを知っている。
それ以前に、あんたと同じ年寄りで、スマホが使えないというだけだが……
それでも、彼らの子供や孫はいる。
そういった若者なら、あんたを殺そうと考えているかもしれない。
とにかく、あんたも大人になってくれ」
「ワシは殺された方がましだ。
無視され、相手にされないくらいなら、殺された方がましだ」
「まだ分からないのか。
あんたが無視されるのは、あんたがそうさせているからだ。
今のままでは、あんたも春子も地獄に落ちる。
善春もだ。
それだけは、止めてくれ」
王寺は杉田の膝に手を置いて泣いた。
「ならぬ堪忍するが堪忍というだろう。
耐えるということは己のためだ。何れ、報われるものだ。
ほんの少しで良い。我慢してくれ」
「俺にそんな生活ができるものか」
杉田は立ち上がり、王寺の周りをぐるぐると歩いた。
手には短刀を握りしめている。
「できる。あんたなら、できるはずだ」
「どうして……そんなことが言える?」
杉田は歩き続ける。
「春子が、ここに来るのが、その証だ。
ただの獣のところに、春子が来るものか」
その声に負けて、杉田はドカッと腰を落とした。
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