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大物政治家と言われる湯河原好夫は、威風堂々とした容貌とオープンな性格で、
世間からは清廉潔白な政治家と見られている。
その湯河原が議員会館で客を迎えていた。
客は産業廃棄物処理場を建設しようという地元の有力者の富田大造だ。
地元の有力者と言えば、市町村の組長か議員、地元企業の経営者、地主など、
地域で意見の通りやすい大きな声の人物と相場が決まっていて、
時には、反社会的勢力と言われる組織の関係者も含まれている。
富田は、地主であり建設会社の経営者だ。市会議員を務めたこともある。
建設会社と言えば聞こえはいいが、事務員の女と現場監督1名を除けば、
社員は、みんな脛に傷を持つ男たちで、
酒と女と博打を楽しみ、
刺青の美しさと大きさを競い合うような者たちだ。
富田は先祖から引き継いだ山間部の土地を産業廃棄物処理場に変えて、
ひと儲けしようと考えていたが、近隣住民の抵抗にあっていた。
「近隣住民と話しを付けるのは、どちらかと言えば、
富田さんのような方たちが得意としているところではありませんか」
湯河原の隣に座った秘書が突き放すように言った。
富田のような男との付き合いは、議員としては避けたいところで、
湯河原本人の口から言っては角が立つので、秘書が代弁した。
「おっしゃる通りなのですが……」
富田が懐からスマホを取り出したので、
「富田さん。録音は困ります」
……と、秘書は身を乗り出して富田の腕をつかんだ。
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