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「これを見てほしいのです」
力では、富田が勝った。
秘書の腕を振り払った富田は『制裁アプリ』を開いて湯河原の前に置いた。
「うちの若い者のポイントです」
湯河原は他人のポイントを見るのが初めてだった。
「919……」
「ええ、近隣住民を脅かしに、
いえ、話し合いに行くたびに、増えてしまうのですよ。
うちの社員は、もう、ビビってしまって役に立ちません。
それで、湯河原先生のお力をお借りしたいのです」
富田はカバンの中からデパートの包装紙に包まれた箱を取り出し、
湯河原の前に差し出した。
中には、菓子の他に500万円の札束が入っている。
「これは?」
「手付代わりの菓子です。先生の選挙のお役にたつはずです」
湯河原の頬がピクリと動いた。
秘書は、湯河原の僅かな表情の変化を見逃さなかった。
「お菓子ということであれば、頂戴いたします」
秘書は包みを手にすると、
返せと言われるのを阻止するように、奥の棚に置いた。
相変わらず、湯河原は何も言わない。
「先生、なんとか、よろしく……」
富田は、応接テーブルにつくほどに深く、深く頭を下げる。
湯河原は、富田の後頭部を見てから口を開いた。
「まぁ、日本の発展には産廃処理場も必要な施設です。
秘書の方から、市長と県警の方には便宜を図るよう、
伝えておきましょう」
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