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「雨が止まなかったら、ここに泊めて」
もちろん、博己の部屋に泊まったことなんて、一回もない。
「いいけど、そんなにひどい雨?」
「鈍感」
あっ、そっか、と思い直して、
「雨のせいにしなくてもいいのに」
「雨のせいにでもしなきゃ、言えない。帰ったら、博己は絶対想像するでしょ。今夜あたしがしたこと。明日になって、心の距離が遠くなってたら困る。だから、見張るの」
「僕もエリカが独りになって、あの人のことを思い出すのは嫌だ。だから僕も見張る」
「それだと、二人共、寝れないじゃん」
「眠ったら、夢の中で逢えばいい」
半笑いで博己を見た。
自然な表情だ。
「それ、なんかのキャッチコピー?」
「今、思いついた」
「センス悪っ」
半分冗談だったのに、へこんだ顔を見たら、余計に可笑しくなった。
「どうせなら、眠ってる間、ずっと手を繋いでてよ。そしたら夢の中でもはぐれないから」
それ、いいかもね、博己はそう言って左手を出して、私はその手の平に、右手を重ねた。
外の雨が幻でも、私達はずっと傍にいる。
これからも。
いつまでも。
☆END☆
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