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始まりを作ったのは、私のほうだった。
あの日、私は定時のバイトを終えて、いつものように社内の喫煙室で煙草をふかしていた。
制服から解放されて、三階の全面ガラス張りの中から、一人見下ろす景色は、息苦しさを取り除いてくれそうで、一番好きな場所だった。
ここで煙草を吸うのは、この時間だけ。
昼の休憩時間は、男性社員が一気に集まる。
そこに混じるのが嫌なのではなくて、たまに話し掛けられたり、その受け答えが面倒で、だからあえて昼の時間帯は避けているのだ。
他の女達は、男の目を気にして社内で煙草を吸うことはなく、喫煙室はいつのまにか男専用になっていた。
だから、まだ男達が残りの仕事をしているこの時間帯が、一番、人と顔を合わす確率が低い。
とっとと退社して、外で吸えばいいだけの話だけど、ここで煙草を吸ってから帰るのが、儀式のようになっていた。
煙で体を浄化してからビルを出る。
それが習慣になっていた。
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