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「そうね。じゃあ最後はマスターのお勧めを飲んでみようかな」
真理の最後の注文を訊いて、複雑な気持ちになった。ブラッディマリーを続けて注文すれば、指紋の付いたグラスを確保することが出来た筈なのに、どうして指紋を拭き取るチャンスをこちらに与えるような真似をするのか?
真理の注文には何か裏があるように思えたのだ。
「やはり、真理さんが飲んでいらっしゃるブラッディマリーにします」
「畏まりました」マスターは再びブラッディマリーをステアし始めた。なかば、真里に乗せられたような気はするが。
「思ったんだけど、マスターは駆け出しにしては随分とステアするのが巧いのね」
真理はマスターのステアを見ながら何時も思っていた。この店に入ってきたばかりのバーテンダーの手付きだとは考えられなかった。
「ありがとうございます」
「どうしてブランドショップで働いていたのかが不思議な位よ。もっと早くバーテンダーやってれば、違う人生だってあったんじゃない?」
「違う人生......ですか」マスターはそうブラッディマリーをグラスに注いだ。
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