7人が本棚に入れています
本棚に追加
駆け引き。
真理の悪い癖が出ようとしていた。マスターの自信を真っ向から崩してやりたくなるのだが、自分のことばかり話したのでは駆け引きにはならない。そう、ダンスは男がエスコートするもの。
質問を変えてみる。
「所で、マスターから私に訊いてみたいことはない?」
「私からですか?」マスターは話の主導権を唐突に移され、面食らうも手を休めて真理に質問を投げかける。
「真理さんは何時もブラッディマリーを注文なさいますが、それには何か理由があるんですか」
真理はブラッディマリーのグラスを眺めて僅かに笑う。
「面白い事を訊くのね。お酒飲むのに納得のできる理由なんているのかしら。いいわ。ブラッディマリーは、これだけを注文するって決めてるの。そう決めたのはここ最近だけどね」
「いえ。ケチを付けてる訳ではないですが、すみません」
「毎晩私と会うから気付いていると思うけれど、ここの店も、グラスも決めて呑んでるのよ。お気に入りの店だもん」
「ありがとうございます」マスターはペコリと頭を下げた。
「他に質問は?」
「真理さんも赤井さんの事件について色々と詳しく、推理もなかなかだと思います。あなたこそどうして?」
「それが仕事だもん」真理は即答すると、残りのブラッディマリーをぐいっと飲み干した。マスターはその発言ではっとした。事件のことを調べる仕事と言えば警察の人間か。だが婦警の制服を着ていないし、礼状を出していない。警察でないとするなら、探偵だ。
「なる程。よく判りました」
「びっくりさせた?」真理は悪戯っぽく微笑んだ。
「しますよ。今まで仰らなかったから」
「ごめんなさいね。赤井さんの友人に調査の依頼をされたの。だからここに来てみたんだけど」
最初のコメントを投稿しよう!