今夜もブラッディーマリーを

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 駆け引き。  真理の悪い癖が出ようとしていた。マスターの自信を真っ向から崩してやりたくなるのだが、自分のことばかり話したのでは駆け引きにはならない。そう、ダンスは男がエスコートするもの。  質問を変えてみる。  「所で、マスターから私に訊いてみたいことはない?」  「私からですか?」マスターは話の主導権を唐突に移され、面食らうも手を休めて真理に質問を投げかける。  「真理さんは何時もブラッディマリーを注文なさいますが、それには何か理由があるんですか」  真理はブラッディマリーのグラスを眺めて僅かに笑う。  「面白い事を訊くのね。お酒飲むのに納得のできる理由なんているのかしら。いいわ。ブラッディマリーは、これだけを注文するって決めてるの。そう決めたのはここ最近だけどね」  「いえ。ケチを付けてる訳ではないですが、すみません」  「毎晩私と会うから気付いていると思うけれど、ここの店も、グラスも決めて呑んでるのよ。お気に入りの店だもん」  「ありがとうございます」マスターはペコリと頭を下げた。  「他に質問は?」  「真理さんも赤井さんの事件について色々と詳しく、推理もなかなかだと思います。あなたこそどうして?」  「それが仕事だもん」真理は即答すると、残りのブラッディマリーをぐいっと飲み干した。マスターはその発言ではっとした。事件のことを調べる仕事と言えば警察の人間か。だが婦警の制服を着ていないし、礼状を出していない。警察でないとするなら、探偵だ。  「なる程。よく判りました」  「びっくりさせた?」真理は悪戯っぽく微笑んだ。  「しますよ。今まで仰らなかったから」  「ごめんなさいね。赤井さんの友人に調査の依頼をされたの。だからここに来てみたんだけど」
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