生まれる前から背負った物語

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 町から少し離れた古い住宅街に修の家があった。  少々大げさな包帯を右手に巻いた修はせかせかと歩いていた。  すると修の前に大きなオートバイが止まった。  アメリカンスタイルのハーレーダビッドソンだった。  革のオートバイスーツにスモークのかかったヘルメットで誰か分からなかった。  修は怖くなってバイクを避けて益々せかせかと歩き始めた。  バイクを抜いてホッとしたところでビッとバイクのクラクションが鳴った。  びっくりして振り返った。  バイクの運転者が手招きした。  逆らえずふらふらとバイクに近付いた。  運転者が黙って後ろの席を指差した。  修は怖くて固まってしまった。  修がモジモジためらっていると運転者に叫ばれた。 「早く乗りなさいよ! もう」  理恵だった。  意外な理恵の出現にダブルで驚いた修はふらふらとバイクの後席に乗った。 「しっかり掴まっててよ、振り落とされても知らないから」  理恵は爆音を立てて発進させた。  後ろの修はめちゃくちゃ戸惑った。  バイクの猛スピードで本当に振り落とされそうなのだ。  理恵は腰に手を回せと言っていたが体に触れるのが怖かった。しかし、  カーブを曲がる時本当に落ちそうになって思いっきり理恵の腰に抱き付いた。 「俺はどこへ連れて行かれて何をされるんだろう」  理恵にしがみ付いたまま修は考えた。  理恵は怒っている、学校では人目があるので傷だけだったが二人っきりになると・・・ 山か海へ連れて行かれて・・・ 「俺は消されるんだ」  不安が頭をよぎった。  修の不安をよそに初めて触れる理恵の感触に両腕は幸福感を味わっていた。  バイクの急ブレーキで体が前に倒れ胸が理恵の背中に密着した。  いつの間にか顔も理恵の背中に密着していた。  ヘルメットがなければ気持ちいいのになどと考えた。  数十分後、バイクは人気の少ない山間部を走っていた。  これは町の裏山を通っているんだと修は思った。  町の裏山の向こう、修は殆ど知らなかった。  家族も町の人も話をしない、山の向こうは何も無いものだと思っていた。  と、いうことはやっぱり・・・  もう一度不安が頭をよぎった。
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