42人が本棚に入れています
本棚に追加
***
夏祭りの屋台のある場所から、少し山道を登った所に、その『特等席』はある。
浴衣に下駄姿で歩くのは、実はちょっと厳しい道のりではあるけど。
「奈々、転ばないようにゆっくり歩けよ? 俺の手しっかり握ってろよ?」
「うん、ありがとう。」
お兄ちゃんが、優しく手を握っていてくれるから。
その道のりは、全然苦にならないんだ。
……芝生みたいに、短い丈の草が所々に生えた地面に、私とお兄ちゃんは腰を降ろした。
「やっぱり、この“特等席”に来ると、何か落ち着くよなぁ。」
「そうだね~。」
浴衣姿で歩いて、更に体が熱くなったから。
手に持ったかき氷を、私は一口スプーンですくって、口に含んだ。
口中が、いちごと練乳の甘い風味で満たされていき、それと同時に体の熱が和らぐのを感じた。
最初のコメントを投稿しよう!