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「ど、どうしよ、ま…眞野くんが殺されちゃう…」
(それどころか、私まで見つかったら…)
「~~~っ、こ…怖い…でも…」
(夏月…! アンタはいつからそんなヘタレでビビりになったの!?)
助けを呼びに行っている時間はない。
(誰かが真野くんを助けなくちゃ…!)
ガサッ…
「あの…!」
持てる勇気と力を込めて、夏月は眞野と上級生グループの前に飛び出した。
「誰だぁ?」
「なんだ、いきなり…」
「はぁ? 女子?」
(うっ)
三者三様の声がクラッシュしたが、夏月はぎゅっと目を閉じると一気にまくし立てた。
「ケンカは怖いし、痛いし、よくないと思います!! 話し合いでなんとかなりませんか!?」
まるで全力疾走したあとのように息が切れ、肩が上下する。
「ひぃっ…」
しん、と静まり返った重い空気に耐えきれず、殴られるかもと、とっさに頭を抱えた。
「…。…あれ?」
砂利の音ひとつ聞こえてこないことにおそるおそる片目を開けると、皆がそろって手にしていたのは携帯電話だった。
「え…」
(け…携帯…?)
「ちっ。なんだ、コイツ…」
「おい。もう行こうぜ」
「そうだな」
「え? ええ??」
暴力沙汰になるどころか、あっさりと去っていく上級生たちに状況を判断する術まで奪われ、夏月は激しく辺りを見渡した。
「…ぷっ」
(…笑い声?)
戸惑いと共に、振り返る。
しかし、そこには眞野どころか誰一人としておらず、
「なんだったんだろう。変わった人…」
夏月の呟きは誰の耳にも届くことなく空へと消えた。
恭賀の携帯電話に対する依存度は、思わず晴樹に食べさせていた離乳食の手を止め、大きくため息を吐きたくなるほどだった。
ソファーに深く身を沈め、恭賀が何にどっぷりはまっているかは、耳にはイヤホン。その先は携帯へと繋がっているため、分からない。
離乳食がベッタリとついた手で、「あぶあぶ」と晴樹が手を伸ばすも、それすら目に入っていないようだ。
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