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夏月の情緒不安さが晴樹に伝染したりしないか。
衣食住を得たことで、晴樹の世話を疎かにしないか。
夏月の行動、そのときの感情。
「だぁっ、はー」
「私は…」
(… 簡単な気持ちで、他人に自分の子供を預けたり、一緒に住まわせたりしないよね。私のすべてがそのまま、はるくんに反映されちゃうんだ)
晴樹と同い年くらいで天国に行ってしまった妹を思い出し、胸が切なく疼いた。
「私は…はるくんの栄養素になります!」
「へ?」
夏月が胸の前に拳を効かせると、その迫力におののいたのか、恭賀は肩を竦めた。
それも構わず、お腹に力を込めると一気に吐き出した。
「ぷにぷにほっぺは元気のバロメーター! 女の子の笑顔が糖分なら、私の笑顔だってはるくんの栄養になりますよね!?」
「…」
「あ、れ…? もしもし?」
ポカーンと口を開けた恭賀に、じわりと頬が熱を持つ。
(私…な、なに言ってるんだろう。これじゃあ、ただの痛い奴じゃない!?)
「こ、これじゃ、納得できませんか…?」
ぐっと言葉に詰まり、当初の勢いはどこへやら。
言葉の末端では、頭の中に寝袋生活が思い描かれ、拳は不安げな口元を隠す役割に変換されていた。
「…カカオでいう何%?」
「カ…カオ? カカオってチョコレートの原料になっているあの…?」
(苦い?)
「うん、そう」
「…えーっと、…カカオ30%?」
(30%が苦いのか甘いのか、全然分からないけど…)
首を竦めながらおそるおそる答えると、恭賀はきょとんとしたあと、ぶはっと派手に吹き出した。
「じゃあ、夏月ちゃんはミルクチョコレート女子だね」
「ミルク?? チョコレート??」
(パパさんは甘いものが好きなのだろうか…)
もし、そうだとしたら原形をとどめていなかったケーキが悔やまれる。
恭賀の考えは分からなかったけど、
「ぷっ…」
恭賀の笑う姿を見ていたら、徐々に夏月にも笑いが込み上げてきて、初めて二人の笑い声が混ざり合った。
「とりあえず…お試しで三日間お願いしようかな」
(三日間…)
うるっ
「…は、はい」
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