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激しく狼狽する夏月をよそに、恭賀の視線が下を向き…
「本当だ。お腹…」
ブチッ…
(3回目!)
「妊婦じゃありません!」
「お腹…」のあとに続く言葉を封じるために、夏月はかぶせるように叫んだ。
叫び、―――ハッと固まる。
(や、家主より遅く起きるベビーシッターって…)
「おおお…おはようございます!」
腰を90度に曲げたまま、顔を上げられなくなってしまった。
次、ダメ出しされたら本当に追い出されてしまう。
次どころか、今も危うい。
三日間という言葉が頭を駆け巡り、自然と身体が強張った。
額から嫌な汗が吹き出すようなドキドキを感じながら恭賀の足元一点に視線を定めていると、ふっと笑う気配が伝わってきた。
「しゃちほこ?…おはよう。夏月ちゃん」
(… よく笑う人だなぁ…じゃない! お…怒られないの?)
凝視していた足があっさりと踵を返す。
「夏月ちゃ~ん。お腹空いたー。夏月ちゃんって料理できる?」
「はい、一応…」
「じゃあ、はるの朝ご飯作るついでに、俺にも何か作ってもらってもいーい?…夏月ちゃん?」
「…あ、はい! もちろんです」
(やだ…っ、なんでほっぺた熱くなってるんだろ)
再び、ふっと笑った気配を思い出す。
(わわわっ…)
夏月は恭賀に気づかれないよう、手の甲で頬の熱を冷ましながら、逃げるようにキッチンへと滑り込んだ。
朝起きて、人の気配がする。誰かのために食事を用意する。
「普通」で「当たり前」のこと。これは多分、贅沢で幸せな戸惑いだ。
「―――ハッ、真(まこと)さ~んっ!!!!」
びくっ
(ま、真さんって誰…はるくんのお母さんかな?)
携帯にのめり込んだ様子で、時折くねくねと気味悪く身体を動かす恭賀の生態を、食器棚に手を伸ばすフリをして観察しながら朝食の準備を進めた。
「パパさんの好みを聞いていなかったので、今日は インディアンサラダとパオバジにしてみました」
「えっと…それはどこの料理?」
「インドの家庭料理です!」
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