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並べた食器を前に、なぜか恭賀は引きつった笑みを浮かべていた。
「一人暮らしだったので、料理には少しだけ自信が…」
照れ照れと首筋を掻く。
(お皿を二枚ほど割っちゃったけど…)
*始末済み
↑あだ名・破壊の女神(ミューズ)
料理をまじまじと見つめているも、いっこうに手をつける素振りがない。
昨日、今日の恭賀の反応から推測するに、『わあっ、美味しそう』と歓声が聞けると思っていただけに、次第に不安が膨らんでくる。
「…イ、インド料理はお嫌いでしたか? やっぱり、オーストリア料理にしておけば…」
「いや、そうじゃなくて…食べたことがないから分からない…」
しょぼん。
「…」
「わーっ、ほらほら。びっくりしちゃっただけだから。美味しそうだなぁ、夏月ちゃんも一緒に食べよう? ね、ね?」
恭賀が大口を開いてパオバジにかぶりつく。
一口飲み込み、恭賀は「ん~っ!」と夏月が頭で描いていた笑顔で歓声を上げた。
「ところで、はるは? まだ寝てるの?」
頬張っていたサラダをゴクンと飲み込む。
「…はい。ぐっすり眠っていたので、ひとまず自分の用事を終えてから保育園に行く準備をしようかと、…何かまずかったですか?」
「いーや? 寝てるならいいんだ。いつもは、はるの泣き声が俺の目覚ましだったから、珍しいなーって思っただけ」
「そうですか…」
夏月の呟きを受け流すように、恭賀の目が晴樹の眠る部屋へと向けられたものの、それっきり手の平を胸に当て身悶えするほどに携帯に夢中だったため、夏月は恭賀の目配せを気にすることなく食器をシンクへと運んだ。
授業が終わり、日直だった夏月はせっせと黒板消しを窓の外に突き出しては叩いていた。
時折、風の流れでチョークの粉を吸い込みそうになりながらも、頭の中ではこのあとの予定を組み立てていた。
(日誌は書いたし。出すついでにゴミ捨てに行ってたら、はるくんのお迎えはこれくらいの時間かな…)
今頃、晴樹は保育園で何をしているのだろう。
保育士や園児に囲まれる晴樹を想像して、胸におかしさが湧いた。
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