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めっきり朝晩と日中の気温差が激しくなり、クラスメイトの中にも体調を崩す生徒がいたが、今日は不快な空気を払拭するほど清々しい陽気だった。
(まだ時間も大丈夫そう)
野球部の声を遠くに聞きながら、空気の心地よさにしばし身体を預けた。
背の高い生垣が、学校の敷地の端にあるこの場所を囲っているため、背の低い夏月には校舎の屋上から続く青空が細長く見えた。
視界に捉えた雲の数を数えていると、生垣の向こう側に誰かがやってきた気配がした。
彼女と同じくゴミを捨てにやってきた生徒かと思いきや、なんとそこにいたのは先ほどまで教室にいた眞野だった。
しかも、一人じゃない。
彼は、学校で随一とうたわれる…ケンカの末、停学にもなったことのある上級生不良グループに囲まれていた。
ゴミ捨て以外にこの場に訪れることのない夏月には、なぜここに彼がいるのか考えが及ばない。
(…やっぱり謎!!)
「でも、これってあれだよね…?」
先を口にするのが怖くなり、拳を口に当てながら物陰に隠れた。
パターン①
“アーン? てめぇ、誰にガンたれてんだよ! コラァァァア!!”
“ひぃぃぃい! 生まれてきて、すいませんすみませんすみません”
「…」
パターン②
“てめぇ、こんなところに突っ立ってんじゃねーよっ”
“はぁあ? てめぇこそ、誰にナマ言ってんだよ。アーン?”
「…」
…どちらもぼこぼこフラグ成立…!!!!
(ぶっ…物騒だ…)
夏月が狼狽から抜け出せず、顎をカクカクさせている間に、上級生グループのうちの一人が眞野を逃がさないように肩を組んで、ぐっと距離を詰めていた。
(て、手が出るの…!?)
上級生としてあるまじき行動に、夏月は目を見開いて、そして眉を寄せた。
誰かに助けを求めに行こうと抜け道がないか辺りを見渡すが、「パチンっ」と小さな音を耳にし、夏月は動きを止めた。
密着した身体。そして、不自然な音。
「ま、まさか…」
脳裏にドラマでしか見たことのない、ナイフを突きつける場面が浮かび、情けなくその場にへたり込んでしまった。
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