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ビシッ、とさしてきた指を思わずバンザイをしながら避けてしまった。
「男ってのはね、誰しも一度は好きな女の子の入浴シーンを覗いてみたいっ…! あ、一緒に入りたいと思うのは、また別次元の欲求ね」
「はぁ…」
「つまり、俺が言いたいのは、男はいくつになっても願いを叶えてくれるネコ型ロボットの存在を信じてるってこと!」
「すみません。さっぱり、分かりません」
男の子は机の引き出しを開けては、ため息でも吐いているのだろうか。
男兄弟はいるものの、恭賀と比較できる年齢には達しておらず、恭賀の例えは腑に落ちてくれそうになかった。
「単に俺は可愛い女の子とカッコいいモノが好きなだけで、あんまり主人公の女の子に惚れるってことはないんだけど、『握って! 恋人は寿司職人』の主人公ちゃんは、そんじょそこらの優男より腕っ節が強くて…(ペラペラ)」
「…」
「漁に出たまま行方が知れない父親のため、一人で実家の寿司屋を切り盛りし、地上げ屋に立ち向かっていく勇ましさときたら…!」
ペラペラ。
ペラペラ。
「…なに、女の子目線のゲームだからって男がやっちゃダメなの?」
ジロリ、と横目で睨まれる。
「い、いえ…」
(わ…私の周りだけ、空気が重いのはどうしてだろう)
「じ…自由な発想が素敵です…」
「うんっ。夏月ちゃんなら分かってくれると思ってたよ!!」
(あ、あれ? どうして、私があせあせしなきゃいけなかったんだっけ??)
その場に立ち尽くす夏月の手を握って、恭賀はぶんぶんと振った。
一頻り握手を交わし、再び耳にイヤホンをつける。
ハッと我に返った夏月は、「だから!」と声を上げた。
「はるくんに寂しい思いをさせてまでするゲームが楽しいですか!? はっきり言わせてもらいますが…っ」
言いかけて、夏月は悔しげに口をつぐんだ。
「親、失格です!」だなんて偉そうなこと言える立場ではないし、そのためのベビーシッター。
口をはさむことでもない。
(ただ…親が目の前にいるのに、目も向けてもらえないなんて、一人でいるより寂しいよ…)
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