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―――ベビーシッター・二日目―――
「はるくーん、お風呂の用意ができましたよ~」
浴槽に湯を張り終え、晴樹のお気に入りである『お風呂で遊ぼう! くまちゃんマンセット』をチラつかせながら夏月が居間に戻ってくると、何やらただならぬ雰囲気で携帯を握りしめた恭賀がテーブルにかじりついていた。
恭賀が携帯にのめり込んでいる光景は見慣れたが、今ばかりはそののめり具合が晴樹へと向けられていた。
「何してるんですか?」
「うーぅ!」
「ん? くれるの。ありがとー」
パシパシと上機嫌にテーブルを叩く小さな手が握っていたのは、何重にも無造作に折り畳まれた折り紙の塊だった。
一方で、夏月が話しかけたことで晴樹の気がそれてしまったと、恭賀はムッと頬杖をついた。
何か言いたげな視線をひしひしと感じる。
晴樹から折り紙の塊を受け取り、夏月は苦笑いを浮かべた。
「さすがに、はるくんにはまだ早いと…」
「いーや。ティッシュをポイポイするときの指使いはとても一歳児とは思えない。ウチのはるならできるはず!」
「あい、う~」
ビリビリ~っ
「あ…」
「…」
「対象年齢三歳以上って書かれてますよ」
「…」
「…」
「はる~。お前はいつも風呂入りたてみたいにあったかいなぁ」
(…なかったことにしちゃった)
「やーゃ、あいっ!」
「いてっ。そんなつれないこと言うなよー」
晴樹を抱き寄せた恭賀が、うりうりと晴樹に頬をすり寄せる。
(言われてみれば…はるくん、顔が赤い?)
―――ハッ
「わっ、なになに」
恭賀と晴樹の間に割って入った夏月は、自分の額の熱と比べるように晴樹の額に触れた。
「どーしたの」
「…うぅっ…ぎゃああー」
「わわっ。おーよしよし、ごめんなー」
突然、視界を遮られた驚きに続いて、夏月が表情を険しくしたのを間近で目撃し、晴樹は声を上げて泣き出してしまった。
恭賀が高い高いをして晴樹をあやす。
「…やっぱり」
「え?」
「熱がある」
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