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晴樹の額に当てていた手を力なく下ろし、ポロポロとこぼれる涙を見て、爪が食い込むほどに手を握りしめた。
振り返れば、兆候はいくつもあった。
『ところで、はるは? まだ寝てるの?』
“お昼ご飯の食べが少なく、寝ていることが多かったです”
『はる~。お前はいつもお風呂入りたてみたいにあったかいなぁ』
「…私が来たことで、はるくんの生活リズムが乱れてたのかも」
「あぁ。だから、身体熱かったのか」
高い高いをしたまま、上目遣いに晴樹を見入る。
ちょっと目を見開いてから、何事もなかったかのようにクスッと恭賀は笑った。
「あぁ、って…病院に連れていかなきゃ」
硬い床が豆腐の上にいるようで、一瞬でも気を抜けば膝から崩れてしまいそうだった。
(きょうだいが体調悪くしたとき、どうしてたっけ…? 保険証? それとも先に病院に連絡すべき…?)
よたよたと不審な動きをする夏月の服の袖を、恭賀が引き止めた。
「ちょ、ちょちょ、待った! これくらいの時期の熱なんて日常茶飯時でしょ。多少、熱があろうがこの通りピンピンしてるんだから、もう少し様子を見ても…。これで病院に行ってたらキリないよ」
「でも…!」
恭賀の胸元を掴み、親指をはむはむする晴樹を見入る。
熱があると分かってから、さらに顔が赤い気がする…
「…家族を失ったからって、ちょっと過剰反応し過ぎじゃない?」
「過剰反応?」
「はるの父親は俺だよ? キミが俺たちの何を知ってるって言うの?」
「…!」
その一言に、妙に頭の中がさっぱりして、さらに奥のほうで何かの切れる音がした。
「なんともないならないに越したことないじゃないですか! パ…パパさんたちの何を? そんなの、聞かないよう言ったのパパ さんじゃないっ。他に行くところがないのに、詮索なんてできません…っ」
目の奥がじわりと濡れるような感じがして、それを堪えると言葉がつかえてしまった。
「守れるものがあるだけいいじゃないっ! 私は…っ」
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