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帰宅する会社員などで混んだ歩道をできうる限り急いで歩き、夏月らは大通りへと向かった。
角を曲がった途端、夏月は直進してきた男性と激しくぶつかった。
「夏月ちゃん!」
男性の身体に弾かれて、尻もちをつきそうになったところを、ぎょっと叫んだ恭賀に支えられた。
「…」
「大丈夫?」
「は、はい…ありがとうございます」
やや状況が飲み込めていない頭を振りきり、恭賀の腕を借りて足元をしっかりさせると、謝罪のため男性に深々と頭を下げた。
「急いでいたとはいえ、急に飛び出してごめんなさい。お怪我はありませんか?」
「…」
(…う)
相当、腹を立てているのか、相手からの反応は一切返ってこない。
(も、もしかして、打ちどころが悪くて声すら出ないとか…!? 病院に行くところだから一緒に…)
おそるおそる夏月が顔を上げると同時に、恭賀が素っ頓狂な声を上げた。
「サエ!? …あっ、じゃなくて…さえ、き先生…」
「え…?」
(佐伯先生?)
ハッとして固まる恭賀の顔は、青白い。
「サエ先生!?」
サエ先生とは、夏月が通う高校の教師だ。
その容姿といえば、癖の強い髪の毛にシワシワよれよれの白衣。それに、いつの時代か分からないビン底メガネがトレードマーク。
…噂では初恋相手は紫式部だと言われている。
(あのっ!?? )
指をさしそうになって、夏月は慌てて手を下げた。
しかし、彼女とぶつかったのは、癖のある髪を上手く後ろに流した清潔感漂うダンディなイケメン。
メガネもかけてはいるが、ビン底メガネとは似ても似つかないシャープの縁なしデザイン。
縁なしメガネをビン底メガネに変換し、目を皿のようにして佐伯の面影を辿ると…
(ホントだ!)
「メガネかけてなかったらわからな―――」
1.年齢問わず(高校生不可)
夏月は、寸前のところで口を塞いだ。
(…パパさんが、どうしてウチの学校の先生を知ってるの!?)
処理しきれない情報がドッと押し寄せる。
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