2.ご主人さまは何を…?

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閉まったままの自動ドアを前に、唖然と言葉も出ない。 ガラスに添えた汗ばんだ手がキュッと鳴っただけで、「押してください」と書かれたボタンを連打しても、自動ドアはうんともすんとも言ってくれなかった。 冷えた汗が荒ぶっていた感情を冷ます。 ガラスに添えた手が力なく落ちたそのとき、どこからか聞こえてきた空耳ほどの救急車のサイレンの音に、夏月はハッと顔を上げた。 息も切れ切れに辺りを見渡す。 「パパさん。あっちに夜間救急外来って書いてある!」 「よしっ、夏月ちゃん。もう少しだけ付き合ってもらえる?」 晴樹を抱き直した恭賀が気にかけてくれるも、その表情は夏月を頼ってくれている。 (家からずっとはるくんを抱いてパパさんのほうが辛いはずなのに…) 小さな身体で病気と闘う晴樹に比べたら、こんな息切れ、お腹が空いた程度だ。 「もちろんです! 行きましょう」 ロビーは診療時間外ということもあり、人もまばらで、走ってきた足音がいつまでも耳の奥に残っていた。 薄暗い電灯が受付までの距離を増長させる。 息遣いが落ち着かないままカウンターに手をつくと、パソコンに向かっていた女性職員が目を丸くした。 「えーっと、サエ…じゃなかった。えーっと、うーんと…ねぇ、サエの本名ってなんだっけ!」 「えっ!? えーっと…、さ、佐伯、佐伯…あぁ! ここまで出てきてるんですけど~っっっ」 喉元を指さし、地団駄を踏む。 あと一歩! と動く唇が気持ち悪い。 「あ…あ、あ、ある人から佐伯先生を紹介してもらって! すぐにこの子、診てもらえませんか?」 「あ、ある人…ですか? すみません。小児科医のほうは現在、処置で手いっぱいでして…他に待っていただいている方もみえますので、診させていただくにはあと二時間ほどお時間がかかると思います」 「に、二時間!?」 「そんな!!」 二人の声がハモる。 「熱もあって、さっきから吐いたりしてるんです! 先に佐伯先生に診てもらうことはできませんか?」
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