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処置中であり、二時間も時間を要するということは、 それだけ緊迫した命のやり取りが行われているということ。
駆け込みで来た挙句、無茶を言って女性を困らせているのは分かる。
(分かるけど…!)
「お願いします!」
「しかし…佐伯先生の担当も本来は外科…」
女性が眉を下げ、どう対応したものかと困っていると、
「―――どうした?」
「事務次長!」
受付の奥から別の男性が現れた。
(うわぁ…!)
抱えていたカルテを机に置き、上着の内ポケットにペンをしまう。
それだけのことなのに、男性の容姿と流れるような仕草に、不謹慎と思いながらも感嘆の息を吐かずにはいられなかった。
(透明感が半端ないというか、あの人の周りの空気が浄化されて見える…! 男の人で綺麗って思ったの初めて…)
「こちらのお子さまを診てほしいと来られたんですが、小児科が処置中で外来をストップしてまして…都先生を希望―――」
(佐伯…都先生。ん?佐伯?)
会話の途中に出てきた名前に、男性はチラリと晴樹に視線を動かした。
直接、目が合ったわけじゃないのに見透かしたような視線に、うぐっと頬が熱くなる。
「…代わろう」
「え?」
「俺が対応する。キミは元の仕事に戻ってくれ」
「は、はい。分かりました…」
困惑した様子でそう返事をすると、女性は椅子を回してパソコンに向き直り、それきり静かにキーボードの上で手を動かした。
女性を気にしつつも、服をきゅっと握る晴樹に、カウンターに出された問診表へと意識を戻した。
「こちらの用紙にお名前、ご住所等を記入し、終わりましたらあちらの椅子に腰かけてお待ち下さい。保険証と母子手帳は後ほどお返しいたします」
指示通りに用紙を記入していく恭賀を背中越しに見つめ、それが終わると夏月らは並んでロビーの椅子に腰かけた。
晴樹を抱き直すために一瞬だけ受付を振り返ると、受付では何やら問い詰める女性を苦笑い気味に男性がなだめていた。
しばらく無言のまま互いに足元を見つめる時間が続く。
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