2.ご主人さまは何を…?

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おそらく、名前が載っているであろう部分は…ちょうど夏月の指が隠している。 (いったい、どんな人が…) 「夏月ちゃん?」 「…ダメダメ! 注意事項その2! プライベートは詮索しない!」 「夏月ちゃん!」 「わっ!」 肩をポンと叩かれた夏月は、思わず女性が何事かと振り返るほどに大きな声を上げた。 ロビーに反響した反動で、夏月の声が消えると、耳が詰まるようなツンとした感覚が残った。 びくびくしながら振り向くと、診察室にいるはずの恭賀が目を丸くして立っていた。 「ご、ごめん。そんなに驚くとは思ってなかったから…」 行き場を失った恭賀の手が空中をさ迷う。 不意を衝かれたとはいえ、保険証を見てしまったところを目撃されたかと思ったが、どうやら気づかれていないらしい。 すかさず、その手に保険証と母子手帳を返した。 「こちらこそ急に大声なんか上げてすみません。診察…どうでしたか?」 「うん…母親からの免疫が切れる頃から1歳になるくらいまでは風邪を引きやすいから、おそらくそれだろうって。熱が続くようならまた診察に来るよう進められた。それまでは首の後ろと脇を一緒に冷やして、部屋の湿度を高めに保つようにだって」 「そうですか…」 医者に診てもらって自分たちも安堵したためか、晴樹の顔色は病院に来る前よりも幾分よく見える。 すやすやと眠る晴樹の頬をちょんと突く。 むにゃむにゃと動く口元に、張っていた肩からホッと力が抜けた。 「大したことなくてよかった…」 恭賀の瞳が揺らぐのと同時に、夏月はふわりと恭賀の腕の中にいた。 「へっ。え? …パ、パパさん!?」 「ありがとう…」 (あ…) 身体を通じて伝わってくるのは、泣きそうなほどか細い声。 「帰りましょう? パパさん」 「…っ」 声を詰まらせて頷く恭賀の目は、微かに潤んでいるように見えた。 …はずの翌日。 「…」 夏月はぎくしゃくと晴樹に朝食を与えながら、ひとり赤面していた。
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