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「ゆ、誘惑!?」
恭賀が「めっ」と指をさす。
どんな悪女に思われているのか、顎がカクカクいう。
「まぁ、冗談はそれくらいにしてー。なんか今日は朝からテーブルが華やかだね」
白いテーブルクロスとまだ湯気が残る花柄のティーポット。
サンドイッチとスコーン、ミニケーキをお皿に盛ったティースタンドに指先を滑らせると、恭賀はスコーンを手に取り、パクリとかぶりついた。
「このスコーンも焼きたてだし、ホント! 夏月ちゃんって真さん並みに女子力高いよね」
「はは、は…ありがとうございます」
(ほめ…られて、るんだよね?)
「夜はもっと豪華で、はるくんにも食べられる料理を作りますね!」
意気込みに握った拳にも力が入る。
朝からナイフとフォークを使って肉料理をいただくのは、いささか胃に負担がかかり過ぎると考え、朝は夕食後にも食べられるようなリッテンハウスホテルのアフタヌーンティーをイメージした軽めの食事を練習がてら用意してみた。
…というのも、病院から保険証が返却され、恭賀と晴樹の苗字が違うと知ったとき、一緒に晴樹の誕生日が近いことを知ったのだ。
目の下のクマもなんのその。
(はるくんを精いっぱいお祝いして、目指せ! 専属ベビーシッター!!)
「あの、パパさん?」
「いや、えーっと…何かイベントみたいなのあったっけ?」
夏月の気迫に押し返された恭賀が首を傾げる。
二人の間に生じた温度差に気づいたとき、初めて夏月は自らの愚かさが見えた。
晴樹の父親である恭賀が、晴樹の誕生日を祝わないはずがない。しかも、生まれて初めての誕生日をだ。
(イベントごと嫌いなのかな…ベビーシッターだからって、ここまではやりすぎ? パパさんって…若いけど、広い家にはるくんと二人暮らしだし、住み込みのベビーシッターが雇えちゃうくらいだから、実は相当のお金持ちなんだ!)
↑アラブの石油王・想像中
(きっと誕生日パーティーなんかもお城を貸し切って行われたり!?)
↑中世ヨーロッパ風貴族・想像中
「…ご無礼存じ上げたでござるっ!」
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