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「…はるも夏月ちゃんに祝ってもらえればうれしいと思うよ」
恭賀の一言は、これ以上ないほどに夏月を喜ばせた。
しかし、そんな夏月とは対照的に、
「…」
(パパさん…?)
カップの中の紅茶を見つめ、一気に煽る。
恭賀の表情は晴れないどころか、どことなく引きつっているようにも見えた。
(…パパさんと代わりばんこにビデオを撮影して、やっぱりケーキはくまちゃんマンだよね! 帰りに本屋さんに寄って絵本を見てこよう…)
水を替えたばかりの花瓶を見つめ、夏月は「うん!」と頷いた。
一週間続く日直の仕事を、今日もコツコツとこなす。
(…なんで日直が一週間も続くかな? まぁ、一度やったら、もう回ってこないからいいんだけど…)
以前は、この週の日直のために、
バイトに遅れる→クビ→家賃が払えない→浮浪者
ぶるぶる…っ
今でも想像しただけで身震いがする…
一週間の日直が一生を左右しかねないと恐れていたが、ありがたいことに保育園は買い物をしてからでもお迎えが間に合う。
(はるくんは天使だし、何よりパパさんいい人…! 天使のパパだから大天使? 天使と神様ならどっちが偉いんだろう。とにかく、心の中で拝んでおこう)
なむなむ…
皆が帰った教室では、昨日の風景が巻き戻ったかのように眞野が机にうつ伏せながら眠っていた。
(あれから無事に帰れたのかな…)
上級生の不良グループに絡まれていた眞野だが、以前から呼び出しに合うことがあったのだろうか。
うつ伏せて眠る眞野の表情は、机に広がった髪の毛でうかがい知ることはできない。
(せっかくなれたクラスメイトだから、眞野くんともお近づきになれたらいいのに…)
耳から伸びたイヤホンを辿っていると、眞野の音楽を聴いている姿がふいに恭賀と重なって見えた。
「真さん…」
(あ、つい…)
ぽふんっ、と指先で口を押さえる。
直後、
ガシャン―――
「え?」
振り返ると、眞野が落とした音楽プレイヤーをサッと拾っていた。
「あっ、待って!」
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