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そのまま音楽プレイヤーをポケットに入れ、立ち去る眞野を呼び止める。
逃げようとする腕を掴み、前髪をかき上げようと背伸びをすると―――、
「ちょっ…!」
「!」
額を押さえながら後ずさる眞野につられて足元が二、三歩もたつく。
「…えーっと、これはいったい何がどうして…」
呆然とする夏月を引き剥がし、眞野は表情を隠そうと頻りにかき上げられた前髪をなでた。
今となっては、もう遅いのだが…
ポケットにしまい損ねたイヤホンが眞野のふともも付近でぶらぶらと揺れていた。
「…」
「…」
「…いやーん、夏月ちゃんのえっち?」
眞野が顔を赤くすると、伝染したように夏月の頬にもボン! と火がついた。
「パ―――!」
「ちょい待ち! 叫ぶのはなし!!」
(わ…私、夢でも見てるの…!?)
夏月の口を塞ぎ、「しーっ、しーっ」と人差し指を立てるのは、紛れもなく晴樹の父親…恭賀だった。
「つ、つまり…眞野くんとパパさんは同一人物で、はるくんのお父さんは眞野くん…?」
「おぉーっ。よくできましたぁ」
パチパチと拍手が贈られる。
(嘘…だって)
軽い口調の恭賀でありながら、クラスメイトの眞野の容姿にめまいすら覚える。
「えっ、でも…でもだよ!? 髪型が違うだけで、こうも人って変われるの…?」
「変われちゃうんだなぁ、これが。しっかし、夏月ちゃんに勘づかれたぐらいで動揺しちゃうとは…俺もまだまだ修行が足りぬ」
腕を組み、うんうんと頷く恭賀を身を乗り出して見入るも、上目遣いに見つめ返す恭賀が眞野の制服を着ているだけで、二人が同一人物とは正体を明かされた今でも信じられない。
(じゃあ、私…ま、眞野くんと一緒に暮らしてたの!?)
「っ、」
「俺らの身近にもそういう人がいるでしょ? その人をお手本に髪型を変えて表情を消せば案外、見た目に騙されて本性なんて気づかれないよ。でもホント、不覚ー。まさかだよ、まさか。真さんへの愛を突いてくるとは、やるね。夏月ちゃん」
(お手本…? って誰のことだろう)
へらっと笑って、「クラスメイトの名前くらい覚えておこうよ」と言う恭賀に言葉が出ない。
「ま、眞野…恭賀、くん…?」
「はい。眞野恭賀、高校二年生17歳」
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