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「うん、夏月ちゃんならそう言うと思った。本当は高校生なのに俺に黙ってて罪悪感感じた? 男なのに乙ゲー好きの俺のことキモいって思った? 俺のことばっか考えてた?」
「そ、それは…」
(私…かなり恥ずかしいこと言った?)
にっこにこの笑顔で面白いことを期待する子供みたいな表情…
睨まれた違和感を、夏月自身が記憶から遠ざけようとしていた。
「…だからかなぁ、夏月ちゃんみたいな人にはなおのこと首を突っ込んでほしくなかった」
「眞野くん…」
言いながら髪の毛の分け目を崩す。
恭賀の人柄を表す笑顔が消えれば、目の前には晴樹の父親ではなく、クラスメイトの眞野が立っていた。
足元がすくわれるような…心臓が嫌な音を立てる。
「な…んのことか、分からないよ」
(なんだろう…)
この感じ。まるで、ひとつだけ当てはまらないジグソーパズルのピースのような違和感。
「これに懲りたら、簡単に人を信じないことだね。右を見ても左を見ても嘘ばっかなんだから。騙しがいがあるって笑われるよ?」
「どちらが本当のパパさん…?」
「面白いこと言うね~」
茂みの奥から虎視眈々と獲物を狙う獣の目に、心臓がぎゅっと掴まれたように動けない。
『―――俺らの身近にもそういう人がいるでしょ?』
『―――その人をお手本に髪型を変えて表情を消せば案外、見た目に騙されて本性なんて気づかれないよ』
(眞野くんは偽物…?)
「…あるときは寡黙な高校生。また、あるときは一児のひょうきんな父親。果たして、その実態は…」
(…。)
ゴクリ
「…キミの心に住まいを設ける住人さっ。ささっ、俺とはるの他に住人を増やしてみる気はない? 俺と…」
「も、もうっ。知りません!!」
近づいてくる恭賀の身体を押し返して、そっぽを向いた。
(なんだ、やっぱり冗談だったんだ。一瞬で引き込まれちゃうからすごいよ)
冗談と分かっていても顔が熱い。
ほてった顔を手で仰ぎながらこっそりと恭賀を見たときには、すでに携帯に夢中だった。
懐寛大、褒め上手で話題も豊富。
夏月をからかって遊んでいる気もするけれど、…肝心なことは何も話さない。
(パパさんたら、どこまで本気なんだろう? ホント、掴めない…)
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