741人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、掃除道具」
「いえ、そうではなく…」
「んー、注意事項に反しないことなら?」
どうぞ? と視線で先を促される。
(注意事項…)
1.年齢問わず(高校生不可)
2.家主のプライベートは詮索しない!
3.家主に恋愛感情を抱かない!!
(…すでに1.の時点で注意事項に反してる…!!)
口を一文字に結んだまま、夏月はしばらく恭賀を見つめていたが、これは…一度、出直したほうが良さそうと軽い咳払いと共に視線をそらした。
「では、これからお世話になられる家主の方に挨拶をしておきたいのですが…」
「うん。これからよろしくね、夏月ちゃん」
「え? ですから家主の…」
恭賀は至って真顔で頷く。
「…」
「…」
「…え、えぇーっ!!? ち…父親…!」
「うん。正確に言うと、ここは俺の母親名義のマンションっつーことになってるけど、住んでるのは正真正銘、俺とはると夏月ちゃんの三人だよ。よって、次から夏月ちゃんは俺のことをパパさんと呼ぶこと! いい?」
ビシッと立てられた人差し指に、目が中央に寄る。
「ず、ずいぶんとお若いパパさんですね…」
「ありがとう」
(いえ。ほめてません…)
「…では、はるくんのお母さんは?」
他意はなかった。
この短い一言に他意を含ませられるほど賢くないし、言葉を変えるならご飯の際に「お箸まだー?」と言う程度。
瞬きほどの一瞬、恭賀の顔から表情が消えた。
空気が流れていく時間がやけに長く感じ、その過程の中で言葉の間違いに気がついた。
「ごめ…」
「なーんちゃって☆びっくりした?」
「え?」
「超美人! 超だよ。どれくらい美人かって? んー、そうだなぁ。保存用、観賞用、布教用に…」
(あ、あの…)
「おぉーっと、どこで出会ったかを話すには、注意事項その2」
*2.家主のプライベートは詮索しない!
「を使わせてもらうよ。じゃあね~」
「あのっ、ちょっと!」
そう言うと、投げキッスを残して、今度こそ風呂場と思われる部屋に引っ込んでしまった。
展開の速さについていけず、目の周りをこすりたくなる。
最初のコメントを投稿しよう!