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手の重みに心を激しく揺さぶられながらも、父親と接しているような心地よさを見出していた。
「…んで、トラックの横転事故に巻き込まれ、車に乗っていた私以外の家族は皆…」
購読済み雑誌×3山盛りを1.5山盛りにし(隅に寄せただけ)、空いたスペースに膝を突き合わせながら、夏月たちは話を続けた。
「んー、夏月ちゃんの誕生から現在に至るまでの事情は分かったけど、ウチも慈善事業でやってるわけじゃないからさー。仕事に支障が出るようなら別の人に―――」
大きく空気を取り込みながら腕が組まれる。
文末が待てず、夏月は固まった。
今になって初対面の彼に晒した泣き顔を思い出し、羞恥心が込み上げてきた。
「今回は、縁がなかったということで」
「そ…そんなこと言わないでお願いします! 私…、ここを追い出されたら行くところがないんですっっ」
本気とも言える、ペコリと頭を下げた恭賀のつむじを見て、夏月は顎に力が入った。
膝で這い寄り、すがりつくように両手で肩を掴まれた恭賀は目を丸くさせた。
「行くところがないなんて大げさな…別にここじゃなくてもバイトなんて探したらいくらでもあるでしょ」
肩を押し返され、立場を失くした夏月は再び床にへたり込む。
「家賃1万5千円の住まい…もしくは、衣食住付きアルバイトなんて、探したらいくらでもあると思いますか?」
「…」
「…」
「親戚には頼れないの?」
「…駆け落ち同然で結婚したそうなので親戚はまったく…知りません」
「…」
「…」
「…」
「…」
「はぁ…」
恭賀はそろえていた膝を崩すと、筋肉をほぐすように眉間に寄ったシワを親指と人差し指で伸ばした。
「…くれるの?」
「え?」
聞き返した夏月の声を受け止める恭賀の表情は硬い。
「俺は仕事に見合った給料を夏月ちゃんに支払う。夏月ちゃんは…幾ら分の仕事をはるにしてくれるの?」
(幾ら分の仕事…)
恭賀の目を見て、その一言にはたくさんの意味が込められているのが伝わってきた。
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