4人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
守護神の妻と四歳になる息子は、守護神の復帰戦をテレビで観戦していた。
そして今、結果が出たところである。
守護神の息子はやはりプロ野球選手の父を持つということもあり、野球が大好きだった。
毎日お父さんみたいになりたいと言っては、小さなグローブとバットを持って公園ではしゃぐ。
今はまだ野球チームには入っていないため練習相手は守護神の妻がしているのだが、そろそろしんどくなってきたなと彼女は思っている。
そんな守護神の息子は守護神の過去の映像を何度も何度も、飽きるぐらいに見て育った。
無理矢理見せる訳ではない。見たいと愚図るので仕方なく守護神の妻は見せていたのだ。
しかし最近の映像を彼女は見せていない。
さらに二軍で登板することになった時も連れて行かなかった。
だから守護神の息子は、四歳の彼が生まれてからの守護神が投げる姿を、生でも映像でも一度たりとも見たことがないということになる。
何故彼女は見せないのか。
彼女は恐かったのである。
つまり自分が弱々しくなってしまった守護神を感じてしまうことや、息子が見たことにより憧れを失ってしまうことを恐れていたのだ。
だから今日も球場に行けなかった。
テレビも付けないつもりだった。
けれども今日は見ずにはいられなかったのだ。
大歓声の中で死力を振り絞り投げる夫の姿が、今日で最後になるかもしれない。
そう思うと我慢出来なかった。
彼女は指を震わせながらテレビを付けた。
そして今、彼女は涙を流している。
「頑張ったね」
彼女はこの場にいない守護神を労った。
隣に大人しく座っていた守護神の息子は、そんな母に夢を告げる。
「ママ! 僕ね、プロ野球選手になる」
彼女は息子の頭を撫でた。
貴方と結婚してよかった。
彼女は改めてそう感じた。
その時守護神の家族である二人は見ていなかったが、テレビには守護神と日本一の打者の勝負が決した瞬間のライガース監督の姿が映し出されていた。
今年で監督を辞めることが決定している彼。
彼はいつも冷静な男だった。
一切感情を表に出さない男だった。
しかしながらほんの一瞬、腕を組んでいる彼の瞳が僅かに潤んだ。
その瞳は何かを見つめていた。
残念な事に何を見つめていたのかは彼にしか分からない。
最初のコメントを投稿しよう!