5.球場のファン

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またフォークボールかーー 四球目、情けなくワンバウンドした投球を見た観客の一人はウンザリとしていた。 ビールを飲んで少し酔っていることもあり、その観客は周りにも聞こえるような声で野次を飛ばす。 「監督ふざけんな!いくらシーズン最終戦で順位確定してるからってわざわざ負けにいくことねぇだろ! 俺らは勝ち試合が見たいんだ! 雑魚ピッチャー引っ込めろ!」 「なんだとてめぇ!! もう一度言ってみろ!」 どうやら近くに守護神のファンがいたようだ。 野次に反応した守護神ファンは、掴みかかろうという勢いで間を詰める。 彼は守護神の背番号の書かれたユニフォームを着ていた。 その喧嘩を止めようと数人の観客が近寄り、場は騒然となる。 その様子を後ろの席からから見ていた二人組の内の一人は、溜息を吐きながら周りに気を配った上で、隣に座る友人に自らの考えを伝えた。 「まぁけど監督が酷いというのは同意だな。わざわざこんな場面で使わなくても。これなら早く打たれて引退してしまえって言ってるようなもんだ」 その友人も彼の言葉に同意する。 「あぁ。二軍の試合で見たけど球速も全盛期より十キロ以上遅いしな。自分の引退試合の時にサヨナラホームラン打たれたこと未だに恨んでんのかな?」 その友人の言葉に彼は声を出して笑った。 だが周りの視線を集めていることに気付いた彼はすぐに静かになる。 彼らがしているのは、ライガース監督の現役引退試合の時の話だ。 その試合は九回表に現ライガース監督が逆転ホームランを放ち、美しい引退試合を目前としていたところで守護神がサヨナラホームランを打たれたという内容だった。 実はこの時、守護神は脳腫瘍の影響を受けながらも我慢して投げていたというのがシーズンオフに発覚し、これにより守護神は何故大事な試合で無理をして投げたのか、というバッシングは少なからず上がったものだ。
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