2.対峙する四番打者

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守護神が戻ってきたーー 彼は溢れ出しそうな感情を必死に堪えながら、数年前までライバルとして幾度となく戦ってきた相手の投球練習を見つめる。 球界を代表する四番打者。 日本一の打者。 現在そんな風に言われている彼が、これまでの野球人生の中で最も苦杯を舐めさせられた投手が、今久々に対峙しているライガースの守護神だった。 彼はそんな守護神が病気を患ったと聞いた時、この目で見るまでは信じられないと病院にまで乗り込み、挙句ベッドの上にいる守護神に 「情けない姿を見せるな!」 とわざわざ買ってきた花束を投げ付けたという事件を起こした程、守護神への想いは強い。 本当に凄い投手だった。 その投手が帰ってきた。 彼は喜びを爆発させるが如く全力で素振りを繰り返す。 そしてようやくバッターボックスに立った。一球目からフルスイングをしようと彼は考えていた。 初球。 昔と一切変わったところはない懐かしいフォームからボールが放たれる。 彼は本能でそのボールにバットを向かわせた。彼の力が足から腰へ、腰から上半身、そして腕へと伝わっていく。 捉えたーー と彼は思った。タイミングは合っていた。しかしバットは空を切った。 ボールが手元で落ちたのだ。 フォークボールである。 「嘘だろ……」 彼は呟いた。 淡々とボールを守護神に戻す捕手を睨む。 「なぜストレートじゃないんだ?」
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