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「うん、心霊スポットとか、お化けとか、高性能カメラで撮ってブログやツイッターにアップしたら凄いことになるのだよ。一夜にして有名人だよ」と新太郎は無邪気に言った。
「お前は本当に幼稚だなあ。IQは幾らなんだ」と父の新郎が呆れた。
「知らないよ。最近の知能テストはやや劣るだったね。ボクは勉強しないから仕方ないよ」と新太郎は他人ごとみたいに口を滑らせた。
「写真学校のことはママに話してみな。オレは眠くなった」と父は本当にいきなりイビキをかいて昼寝してしまった。寝顔を観察すると顔色もどす黒くて頬もこけていた。少しずつ何かを一服ずつ盛られているのかな、と安っぽい推理ドラマを連想した新太郎だった。それに父の人相は妹たちには顔立ちに共通点があったが、自分とはほとんど無いように思えた。父の鼻が御室の桜みたいに低くて上向いて開いていた。新太郎の鼻筋は通っていて、これが油屋の本当の血筋だと褒められたことがあった。祖父は初孫の新太郎が生まれたら、すぐに手相を見て、この子には秀吉みたいな天下取りの出世相がある、と喜んだと聞いている。父の新郎は亡くなった実母の先妻に似たのだろう、と思った。やがて雷のような大きなイビキが轟いて障子紙を震わせたので、新太郎はうるさくて逃げ出すように外に出た。爽やかな五月の風が町の緑の木々に吹いていた。
五 女たちの騒めき
六月になった日曜の朝だった。ダイニングルームの食卓には一輪の大振りな紫陽花の花の一輪挿しが置かれていた。昨夜からの大雨は止む気配がなかった。母の海香と新太郎が食卓で向かい合うのも久しぶりだった。寝起きの新太郎が寝ぼけ眼をこすりながら、顔も洗わずに厨房に入り、賄いの辛子明太子、ほうれん草のお浸し、鶏がらスープ、デザートの一片のメロン、それにコッペパンをトレイに乗せてダイニングに入ったら、母が先に食事をしていたのだった。母のトレイは、豚肉の味噌煮、ご飯に味噌汁、梅干し、メロンの一片にコーヒーで仲居に言いつけて運ばせたものだった。
「ろくに寝ないで深夜テレビを見ていたでしょう。音量で分かるわよ」といきなり小言を言われて新太郎はムッとして答えずコッペパンをむしって口にした。
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