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「K大病院で受けたパパの精密検査結果が出たのよ。これから筋肉や関節が強張っていく進行性の難病との診断結果なのよ。お爺ちゃんは高齢者だし、妹は中学生、あなただけが頼りなのよ。しっかりしてちょうだい。新ちゃんにしっかりしてもらわないとママは困るわ」と朝っぱらから今にも母に泣きそうな顔で愚痴られた。
「パパ、入院することになるの?」
「客室の一つにベッドを入れてお医者さまに定期的に往診してもらいます。勝手に入ってはいけませんよ」と釘を刺された。
雨天で外出もままならず、自室でマンガを読んだり、テレビのお笑い番組を見たりで過ごしていた新一郎も、それさえ退屈になり庭園の紫陽花が良く見える廊下に出てみた。木々の葉を打つ雨音が激しかったが、仲居たちや清掃人たちの溜まり場の部屋から甲高い話し声や笑い声が聞こえていた。新太郎は聞き耳をたてた。
「ねえ、みんな知ってる。開かずの間ができたよ」
「女将さん達だけが入れるそうよ」
「従業員はお掃除にも入れないのだって」
「大女将さんが、塩と水差しを持ってはいるのを偶然見たわ」
「部屋の鍵を持っているのは若女将さんと二人だけだそうよ」
「非番で帰った警備の木暮さんが言ったよ。昨晩の深夜見回りで、その部屋の前に白い服を着た人影があったって」
「キャッ!止めてよ」と一斉にドッと悲鳴があがった。
「男だったの、女だったの」としばしの沈黙の後に声がした。
「それが怖くて目を瞑り後ずさりしたから、何も正体は見ていないのよ」
「なあんだ。金玉ぶら下げてだらしないことね」
「あの守衛さんの股の棒は、お小水流しの管なのよ」
「本当にうちの亭主も同じよ。もう何年もご無沙汰よ。ああ、ヨンさまに抱かれたいわ」
「あんたじゃ無理よ」
「あんたに言われたくないよ」と女同士がど突き合いして戯れている様子だった。今度は哄笑が起こった。昼下がりの旅館の暇な時間で仲居や清掃人たちが集ってお喋りしていたのだった。少年の新太郎は、日頃から彼女らとあまり接触しないので誰の声か聞き分けはつかなかった。その後も女たちのお喋りは続いた。
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