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新太郎は母の心を図りかねた。同い年の大女将の沙知と母はスタイルも似たり寄ったり、双方ともタヌキ似のたいしたご面相の持ち主でもなく、ありきたりの並な女人で、いかにも甲乙の付けがたいドングリの背比べの有様だった。母は早く自分を油屋旅館の跡取りにして、その威光で大女将の沙知を追い払う魂胆にも思えた。
近い将来、新太郎が『油屋旅館』の跡取りとして妻を娶れば、自分が大女将となってすべてに采配を振るい、戸籍上の義母に当たる煙たい沙知を隠居に追い込めると踏んでいるように感じたのだった。
「ボクの方から祖父ちゃんに頼むよ。大学くらい行かせてよ。今時は、大学まで行くのが当たり前になっているだろう」と少し悄然とした顔になった新太郎に母が厳しいことを告知した。
「さっき先生が本当のことを、わたしに教えてくれましたよ。新ちゃんの成績がなってないじゃないの。偏差値が四十にも満たないから、新ちゃんを受け入れる大学がないだろうってね」と新太郎は弁慶の泣き所を打たれた。
「だって推薦入学があるよ。ママから先生に頼んでよ」と懸命に懇願した。
「新ちゃんの素行と成績の悪い内申書では推薦状はもらえません。授業中に平気で私語をしたり欠伸したり、大きなオナラしたり、勝手に外に遊びに出たり、丸っきり不良のすることじゃないの」と母はピシャッとハエでも叩き潰すように言った。新太郎はふざけてサムライが斬首されたように首筋を撫でた。
「ボクは勉強と素行だけじゃないと思うよ。体育が優秀だったら体育枠で推薦してもらえないかな」と呑気な新太郎の声だった。
「新ちゃんは何が得意なの?」
「部活はソフトボールしているよ。センターで四番を打っているよ。一応主将だぜ。部員からは閣下と呼ばれているんだ」と家人に初めて告白する自慢話だった。油屋家では父も母も、これまで新太郎には無頓着で、学校で何の部活をしているかさえ把握していなかった。いわば放任していたのだった。
「家でそんな部活の話をしたことあったかしら。何か凄い実績があるの。男子のソフトボール大会なんて、新聞でもテレビでも話題になったことないけど…」と母が呆れ顔だった。
「三多摩大会で準決勝に出たのが最高かな」
「何チームあったの?」
「ええとね、四チームしかエントリーがなかったから、最初から準決勝だったよ」と白状した。
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