SCENE 1
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SCENE 1

 大きな壁掛け時計の針が、午後6時を示す。  図書館のラウンジで体を休めていた遠流は、ゆっくりと目蓋を開けた。  遠くに目を向けると、たくさんの人達が読書をしている様子が確認できる。  しかし視線を側に戻す。それだけで日常は消え失せる。  何人もの少女達が自分の周りを取り囲んでいた。  男としては嬉しい状況なのだろう。だが、素直には喜べない。  何故ならこれは、《彼女達を捕食する為に体から漂っている匂い》が原因なのだから。  遠流は長々とため息をつき、自分をこんな体に変えた男の姿を思い浮かべた。  ウィザード。  銀色の髪に、翡翠色の瞳が特徴的な彼を追って、遠流はこの街までやって来た。  目撃情報があったのは、アンダーグラウンドサイトへの書き込みなので、信憑性は高くない。  勿論、信用しているわけでもない。  タイムリミットが迫っている以上、藁にも縋る思いで確かめに来ただけである。  そろそろ移動をしようと、遠流は立ち上がる。  途端に抱き付こうとしてきた少女がいた。  面倒だとは思いつつ、遠流は自然な動作で振り払う。  床に転がった彼女は動かない。  遠流から漂う匂いによって極端に意志が低下している為、欲望を刺激する匂いが側になければ、自ら動く気力すらなくなるのである。  どうせ5分もすれば冷静さを取り戻すはずだ。  遠流は無視をして歩き出す。  自動ドアをくぐり抜けると、 強い日射しが照り付けてきた。  目を細めながら空を見上げれば、澄み渡った青が広がっている。  傘を差している主婦とすれ違う。  信号の前で立ち止まっている初老の男が、ハンドタオルを片手に汗を拭っている。  路地を駆けていく子供達の肌は、小麦色に日焼けしていた。  街の喧噪に、何処からともなく蝉の鳴き声が混じる。  遠流はこういった、目や耳で得られる僅かな情報と、まだ人間だった頃の記憶からしか、夏を感じることができない。